手元か画面か
「仲間内でさ、パソコンできるって言っちゃったんだよ」
と、Yさんは入会した。
「そしたらさ、収支報告作ってって言われちゃって。デヘ」
絶対、仲間内の”ジョシ”に言われたんだろう。そして、断れなくなったんだろう。
「ということで、エクセルやりたいんです」
というYさんはキーを打つのがやっと。エクセルも何も、セルの概念がこれっぽっちもないのに、相当大変である。
初回の収支報告書は、私の一存でワードにしてみた。
Enterを押しても行が増えないことにずっと疑問をぶつけていたので、もう、無理だ、と思った。無理。
ところが、Yさんはエクセルをしたいらしい。
私がいないところで、他のスタッフにエクセルを学ぶ。
私が見た時に一生懸命エクセルに打ち込んでいた。
がんばれ。
ところがである。セルと行のマウスの形の違いが解らないのと、マウスを動かすのが苦手なため、よく、行を消してしまう。「あ。何もしてないのに、横の数字が11から15になった。」と、彼はいい、なぜかA列に数字を打ち出す始末。
「これは、この行が見えなくなっているだけですよー。」と笑顔の私。
「では、ここをドラッグして、右クリックすると、「再表示」ってありますよね。」
「うん」とYさん
「では、再表示をクリックしてみましょうか」
「右?左?」
「左です」
と、おもむろに手を見るYさん。そして、マウスの先っぽは[再表示]から[非表示]に移動し、決断のクリック。嗚呼。
画面を見るYさん
「あれえ、今度は10から16になったなあ。」
「・・・今、間違えたとこ、クリックしちゃったみたいですね。戻るボタンで戻りましょうか」
「間違えた!?」となぜか、Deleteキーを押すYさん
「ふふふ。」このくらいじゃあ驚かないぜ。戻るボタンの場所を指し示す私。
「さて、それでは、もう一度、再表示。今度、マウスのボタンを押す時には、手元じゃなくて画面を見ながらおしましょうね」
「はい」
以下ループ。クリックするときに目がどこかに浮いている。ずっと再表示を押せない。
#今考えれば、非表示になった時に戻るボタンを押していただけばよかったのか。いや、でも、気づいたのがすぐとは限らないから・・・ぶつぶつ。
10分後。
ようやくできた。私も疲労困憊だが、Yさんも疲労困憊だ。
入力の時もそうだ。手元か、画面か。
初心者にとって買い物がしにくいのはエラーがよく出るせいであり、エラーがよく出るのは、画面を見ていないからということが多い。サイト制作者は、初心者の気持ちになって、サイトをチェックすべし。という結論である。
ところで、最終的には、入力されたデータに線を付け、形を整えて、Yさんはご機嫌であった。
「Yさん、今度基礎からやりましょうね」と声をかけた私に
「今度の書類は再来月だから、再来月また来るね!」と笑顔で帰っていかれた。
H女史が言う。「いいわね、私たちみたいな高齢者相手だと、毎回忘れてるからおタクは商売になるでしょ!」と。いや、そうかもしれないけど、それはそれで、時折切なくなる乙女心を解ってほしいと、満月の度に思う。おじいさまじゃなくて、王子様がこの俗世から連れて行ってくれればいいのに!(笑)
周りにいるのは白馬の王子さまじゃなくて、白髪のおじ様でもなくて、無髪のおじいさまばかりだったりする職場より。