探している言葉だけ
Tさん、64歳女性。
「家ではポチポチ使っているだけなのよ」とご入会。
「でも、多分、使っているから基本は解ると思う。とりあえず今仕事で使わなくちゃいけなくなったから、エクセルを勉強したいの。」
私たちが入会時に一番気をつけなくちゃいけない言葉は「家では使えているから」という言葉である。
これは、8割型「ウソ」というか、「できてない自分を知られたくない」もしくは「本当にできていると信じ込んでいる」「基礎をやりたくない」のいずれかである。ちなみに、ここでの「基礎」とは、「作ったファイルを保存することができる」という意味である。コレさえできればどうにか進められる。でも、多くの人はコレを知らない。他にもウィンドウを大きくできるとか、マルチタスクがなんとなく解るとか。そんなレベル。
我々は年間、大量なシニア層にあっておりますので、大抵のウソは見抜くことができる。ただ、「ウソだ!」と言うと相手とのプライドの問題などもあるので、やんわりとそのレベルを聞き出す。(それができないと営業ができない。←だから「本音」とタテマエの違いを嫌になるほど解ってるということもあるのですが・・・)
Tさんは、私が営業したわけではないのでどのレベルを自己申告されたかは知らないが、「できるのよ」「エクセルがやりたいの」の一点張りでエクセル初級(というコースがある)からやることになった。
しかし・・・
実態は、文字入力がやっと、という方だった。
昨日は現場に一日立ってみて思わずTさんを観察。
Tさんの場合はスタートボタンから「エクセル」を出すのもやっと、という感じだ。解っている人にとって「エクセルを出すのに悩むの?」という感じであろうが、それが実態である。そういうものなので彼女の操作は「初心者の操作」として非常に参考になる。
まず、マイドキュメントを開いてファイル→新規作成をしようとする。など、「ソフトが違う」という概念はない。
さらに、久しぶりに新鮮にビックリしたのは「自分が捜したい言葉しか見えない」ということだった。
レコード大賞を思い浮かべて欲しいのですが、最後に突然舞台が暗くなる。舞台の上には歌手がいっぱい並んでいて(とはいえ、実はレコ大最後に見たのが7年前くらいなので、正直今どうなっているのかは知りません。想像と妄想で書いています)「じゃかじゃかじゃかじゃか」という音と共にライトがぐるんぐるん周って、「大賞はこの人です!!」とスポットライトがあたる。歓声と涙。
例えば、「フォルダにファイルをしまいたい(保存)」と思ったとする。
彼女の辞書には「保存」という言葉がない。となると、前述のスポットライトのように目玉が画面の上をくるくる回る。
他のものは全く見えていない。
例えば、そこに「保存」という文字が書いてあっても「全く見えていない。」 彼女が欲しい言葉は「しまう」だったりもする。(保存と言う概念がないから)
結局、ファイルから「保存」と言う言葉を引っ張るのに数分かかった。
本当はこの例ではなかったのですが、(どんなシチュエーションだったかは忘れましたが、ネタ帳に「探している文字しか見えない」というメモがあったのと概要だけ覚えている。)「探しているもの以外は目に入れようとしない」というのは初心者の行動の特徴でもあります。
そんな中途半端な例文を出されても・・・と言う方のために
一度、渋谷の交差点で、思い立って「鈴木さ~ん!」といったことがある。結構大きな声で言ってみたのだが、振り返ったのは数名だけだ。近くにいた友達には怒られたが(「恥ずかしい!」)「今振り向いた人って鈴木さんか、鈴木さんの友達だよね」というハナシで盛り上がった。
昔は駅のホームでは構内放送がずっと流れていて、他の人の放送なんて全然耳に入らないのに「練馬区(当時)にお住まいのモリサン」という放送が流れたときには耳が反応した。不思議だなあ、とつくづく思っていた。
広告を作る学校に行っていたとき、課題に「携帯電話を電車内で使わせないための広告作りの練習」というのがあった。その時に生徒の作品を見て先生が一言。「いいか、こういう広告は、電車内で携帯を使っちゃいけないと思っている人しか目に入らない。携帯を電車の中で使っている人には目に入らないという事を覚えておかなくちゃいけない」(ちなみに、その後の呑み会で先生に「私、こういうのにしようと思ったんですけどね」と、自分の案を見せたら「それはいいけどぶっ飛びすぎ」と言われましたけど(笑))
そう、当たり前のことだけど、目に入るもの、耳に入るものは「興味があること」「解っていること」だけだ。
多くのウェブサイトではすべてが目に入る事を前提に作られているが、それはそんなことはない。スポットライトのように、見えるものしか見えていない。あとは雑音、雑モノに過ぎない。
ウェブサイトを作る人は全体が見えている。でも、特に視野が狭まっていて、インターネット自体を「ちょっと解らない」と思い込んでいる人にとっては黒い布に穴が少し開いていて、それを使ってウェブサイトを見ている状態だ。
視野の広い若者とは違う。
そうおもって、シニア向けのウェブサイトを作る。シニアの欲している言葉を、彼らのわかる言葉を使えばあなたのウェブサイトはもっとシニア層が使ってくれるのではないかと思う。