知っている言葉にこだわる

「なんでカニなの」とAさんが仰る
「カニ?」
Aさんは現在エクセルの達人、というコースをしている。ピボットテーブルを駆使しているのだが、その一つに表のオートフォーマットがあるのである。そのサンプルが、「カニ」なのである。
「カニって魚介類のカニ?」
「ええ、多分・・・」
「何でカニなの」
「サンプルだからいいんじゃないですかね」と言う。なぜサンプルにカニが使われているかなんて答えられる人がいるのだろうか。
「こういうの、気になるんだよね」
実は、これ、シニア層の特徴だ。周りに難しいことがあると、知っている言葉だけに集中する。若い人から見たら「なんでそんなこと!」となるのだが、年をとった人にとって、わかる言葉があると、それだけに集中する。そこが心を許せる場所なのだ。他は敵の如く難しい言葉が溢れている中、そこだけは自分が優位に立てる場所なのだ。


先日も、ウェブを見ながら「デシベルって知ってる?」という話になった。db、所謂騒音を表すものだ。
「僕はdbについて詳しいから、このサイトを見ても解るけど、他の人にはわからないんじゃないかなー」とHさんがいう。
「だいたいこのdbというのはだね、」と解説が始まる。
他の人が見たとき、dbに興味が無い人は見もしなかった部分だが、知っている部分があると「それ知ってるよ!」というのは若者でもそうだが、シニア層になると特にそれが強い。ウェブサイト上に知っている言葉がすくないと、少しでもある知っている言葉に対して集中砲火する。「うーん、この解説はわかりにくいんじゃないかな、僕みたいにdbに詳しい人だったら解るけど」
プリンタのウェブサイトを見たときはplだった。ピコリットル。延々とplについて語ってくださる。「大体plが小さいほうがいいのよね、そういう観点でプリンタは選ばなくちゃ」
ちがうのだ、本当はそういう観点で選んでいるのではないのだ。ただ、知っている言葉に反応しているだけだ。彼女がプリンタを買ったのを知っているが、最終的にはplは見ていたが、それじゃなかった。ただ、plという言葉を知っていることが、ウェブを見ているときにそこに貼り付けられたようになるのだ。
PLといえば、私にとっては桑田の母校であるが、彼女にとっては「それを知っていることによってプロっぽい自分を演出」出来る感じなのだ。新人さんが難しい言葉をやたらと使おうとして言葉に操られているのと同じように、多くのシニア層も知っている言葉に対して知っている快感に酔っている。
その酔い度は周りの言葉が難しければ難しいほど、その知っている言葉に集中する。
その道の専門の人なら当たり前のように使う言葉をもう一度ユーザー視点で見直してみませんか?