大人と語彙と理解と。
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個人を特定されないよう、ところどころ、詳細をぼかしてあります。
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Bさんが、Aさんが仕事ができないと、嘆いていた。
BさんはAさんの上司である。
Aさんは、30歳女性。とある中小企業に中途採用で入った。
努力家で、性格が良い。趣味は読書。年間70冊は読むという。
Bさんの話を聞いていると・・・。
・仕事中に、言われたことについてメモを取っているが、そのメモが活かされていない。
・業務に必要な知識が古いので、業務時間内でもいいから勉強をするように伝えると、「勉強は好きなので、行き帰りの電車で知識を最新にします!」と言っているものの、全くその気配がなく、相変わらず古い知識のままで業務を行い、ミスをしている。業務時間内に勉強させると、勉強はする。しかし、それ以上の応用が利かないし、疑問点を聞いてこないので、勉強内容(=本)にないことは一切できない。
・上司Bさんも手を替え品を替え、さまざまな教育を試みたが、打つ手がなくなってしまった。
Bさん「このままでは私が鬱になる・・・。どうにか原因を探って対処できないか」
という相談を受けた。
そこで、Aさんにパソコン研修として当社にいらしていただいた。
パソコン知識も古い、というより、卒業後パソコンを使わない仕事だったために、大学時代に学んだことが彼女のパソコン知識の全てであり、それ以降の知識アップデートはなかった。
しかし、彼女は「(大学時代にパソコンができていたので、)私はパソコンが使えます」と、面接の際に言ったそうだ。
エクセルの基本から教えるという体で研修にいらしたAさん。
実は、私は、Aさんの問題はパソコンよりも、「割合の考え方を理解せずに大人になってしまった」類のよくある数学が苦手な大人なのではないかと、仮説を持ってい。
弊社は大人向けの数学教室もやっているため、エクセル学習を進める途中で数式の考え方に怪しいところがないかを観察。
実際、前年比などの計算の出し方は間違っていたし、割合の意味もわかっていなかった。
基本的な関数も使っていたと言ったが、所々怪しい。認識が甘い方なのか?
勉強はとても真面目にこなしていて、数学的な要素も当社の特別な(?)指導でようやく理解していただけた。(ように見えた)
しかし、彼女の根本的な問題点はそこではなかった。
問題は、「語彙」だった。
本が好き=語彙が多い、と言うわけではない。
例えば、「どら焼き」という文字を見て、「りんご」なるものを思い浮かべていても、それは誰にも分からない。
「甘いの好きなんだ~!どら焼きとか特にすき」
「そうなんだ」
「腹持ちもいいし」
という会話が繰り広げられていても、別にどら焼きでもりんごでも会話が成り立つ。
上司であるBさんとのAさんの会話が成り立っているように見えて、
共通言語が根本的に違うから、AさんはBさんの話を理解できないし、
理解できないと言えないから、仕事が進まないのだ、ということが分かってきた。
理解できないから適切な対処ができない。パソコンを使うポイントも分からない。
「どらやきのあんって粒がすき?こしがすき?」
「・・・(何を言っているんだろう)粒ですね」(とりあえず繰り返す)
「そうなんだ!」(会話が成り立っていないことに気づかない)
それに気づいたのは、経理関係の練習問題をしているときの、漢字変換だった。
漢字が、読めてない。読めないから変換できない。だが、変換できないことを不思議に思わず、自分なりの変換をしていた。そして、わからない言葉を打っていても、それを疑問に思わない。
これは根が深い問題だ。
自分が話している言葉は、相手と認識を同じくしているとは限らない。
自分自身も、実は理解していない言葉が多いのではないかと
帰宅途中に広告を見直したが、多分大丈夫だと感じた。
それは、自分の語彙のありなしではなく、
周りにある言葉が、平易なのだ。
ウェブは小学校4年生でも理解できるように書くように、とずいぶん前に習った。
そうなのだ。
周りの言葉が優しくなりすぎて
難しい言葉に出会う機会が減り
私たちは「難しい言葉」を習得せずに生きられるようになっている。
難しい言葉を使ったら、難しいことを言ったら、読んでもらえない。
読んで欲しいから簡単にする。
そして、考えずに毎日を過ごせるようになっている。
AI vs. 教科書が読めない子どもたち、という本がある。
大人だって同様である。
どうしたものかと、考えている。答えはまだ見つからない。